きっかけは「溜めてしまった帳簿」
個人で事業をやっていると、どうしても後回しになりがちなのが日々の経理です。売上の管理ならまだしも、こまごまとした経費の仕訳や領収書の整理は、忙しくなるとつい手が止まってしまう。気づけば、しばらくの間まったく帳簿に手をつけられていない、という状態になっていました。
放っておいても勝手に片付くものではありません。そこで思い切って、AIに「うちの経理担当」になってもらうことにしました。単発で質問するのではなく、継続的に経理の面倒を見てもらう、という関わり方です。やってみると、想像していた以上にうまく回り始めたので、どんなことをしてきたのかを振り返ってみます。
まずは「置き場所」と「呼び名」を整えるところから
最初にぶつかったのは、書類が散らかっているという地味な問題でした。たとえばサブスクや通信費の領収書が、サービスごとにてんでバラバラの名前で保存されている。同じサービスなのに表記が揺れていたり、ダウンロードしたときのままの記号のような名前になっていたり。これでは人間でも探しづらいですし、AIに突き合わせをお願いするにも都合が悪い。
そこでまず、ファイルの名前を一定のルールで揃えるところから始めました。あわせて、書類をどこに置くかも決めました。専用の「提出箱」にあたる場所を用意して、そこに放り込んでおけば、あとはAIが中身を読んで、年月やサービスを判断し、しかるべき場所へ仕分けてくれる、という流れです。
地味ですが、この「置けば片付く」状態を作れたことが、後々ずいぶん効いてきました。
「あるべきもの」と「実際にあるもの」を突き合わせる
次に取り組んだのが、毎月決まって出ていくお金の整理です。
もともと、こうした月ごと・年ごとの支払い——つまり確定申告に必要な情報——は、スプレッドシートにまとめて管理していました。長年それで回してきて、人が眺めるぶんには十分だったのですが、AIに扱ってもらうとなると少し勝手が違います。そこで、データとして読み書きしやすい形式、具体的には設定ファイルなどでよく使われる「YAML」という構造のはっきりしたテキスト形式に作り変えてもらいました。
中身としては、通信費や光熱費、いくつかのサブスクのように、定期的に発生する支払いをひと通り洗い出して、一覧にしておきます。いわば「これは毎月あるはず」というお手本です。
このお手本と、実際に手元にそろっている領収書を突き合わせると、「今月はこれが足りない」というのが一目で分かるようになります。人間が記憶を頼りに「あれ、あの領収書もらったっけ?」と悩む必要がなくなる。足りないものだけを取りに行けばいいので、抜け漏れがぐっと減りました。
しかも、支払い額が変わったときには、その履歴も残してもらうようにしました。いつから値段が変わったのかが後から追えるので、見直しのきっかけにもなります。
データは機械に優しく、画面は人に優しく
ここで、ちょっとした工夫をしています。これが今回の肝のひとつだと感じている部分です。
さきほどのお手本の「正本」は、AIが読み書きしやすいテキスト形式のファイルです。ただ、これは処理するぶんには都合が良くても、人間がぱっと眺めるには向きません。そこで、この正本をもとにして、ブラウザで見やすく表示する一枚の画面を自動で作ってもらいました。毎月の支払い状況、足りない書類、単発の出費、そして仕分けの結果を、タブで切り替えながら眺められる「経理ダッシュボード」です。
この「データの本体」と「見るための画面」を分けたのが、ポイントでした。正本を書き換えたら画面を作り直すだけで、いつ開いても最新の状況が映ります。そして地味ですが大事なのが、AIに毎回いちから事情を説明し直さなくて済むという点です。正本を読めば現状がそのまま伝わるので、やり取りが軽くなり、余計なコストもかかりません。人間は見やすい画面で全体を把握し、AIは扱いやすいデータで処理する——それぞれに都合のいい形を、同時に用意できたわけです。
会話のたびにこの画面を最新の状態に更新してもらっているので、手元ではいつ開いても今の状況がそのまま映っている、という安心感があります。数字とにらめっこする作業ではなく、全体像を「見るだけ」で把握できるのは、思った以上に快適でした。
過去の自分を「お手本」にして仕分けを自動化する
ここが今回いちばんの肝でした。
実は、前の年にきちんと付けた帳簿が残っていました。これはつまり「どの支払いを、どう扱ったか」という正解の記録です。これをAIに読み込んでもらい、判断の基準にしてもらいました。
たとえば、ある支払いは事業の経費として、別のものは個人の支出として処理する——その線引きは、過去の自分がすでに一度やっているわけです。その実績を下敷きにすれば、今年の取引も「これは経費」「これは個人の分」「これはそもそも登録不要」と、かなりの部分を機械的に振り分けられます。
家計と事業が同じ財布から出ていく場面も多く、明細には事業に関係のない支払いも混ざります。そうしたものを一つひとつ人間が選り分けるのは骨が折れますが、過去の基準と照らし合わせることで、その大半を自動でさばけるようになりました。
迷うものだけ、人間が決める
とはいえ、何でもかんでも自動で決めてしまうのは危険です。たとえば、用途によって経費にも私用にもなりうる買い物や、按分が必要な支払いのように、文脈を知らないと判断できないものは必ずあります。
そこで、機械的に決められないものだけを「要判断」として浮かび上がらせる仕組みにしました。確実なものはAIが処理し、グレーなものだけが人間の前に並ぶ。人間は、その限られた数の判断に集中すればいい。一度判断した内容は基準側に反映していくので、回を重ねるほど「迷うもの」は減っていきます。
このさじ加減——どこまでを任せて、どこからを自分で決めるか——を調整できたことが、安心して任せられる決め手になった気がします。
やってみて感じたこと
振り返ると、AIにお願いしたのは「面倒だけど判断はそれほど要らない作業」が中心でした。名前を揃える、突き合わせる、過去の例と照らす、一覧にまとめる。こうした手間のかかる部分を引き受けてもらうことで、人間は本当に考えるべきところ——お金の使い方そのものや、判断の難しい仕分け——に向き合えるようになりました。
完全な丸投げではなく、役割分担です。AIが下ごしらえをして、人間が最後の味付けをする。そう捉えると、経理のような「正確さは要るけれど創造性は要らない」仕事は、AIととても相性がいいのだと実感しました。
次の課題は、帳簿アプリへのデータ投入
ここまでで、書類を整え、仕分けまでできる土台がそろいました。とはいえ、正直に言えばこれはまだ下ごしらえの段階です。本当のゴールは、こうして分類した内容を、実際に帳簿をつけるためのアプリに取り込み、最終的に確定申告まで持っていくことにあります。
そこで次の課題は、この整理済みのデータを、帳簿アプリが受け取れる決まった形式に変換して投入するところです。ありがたいことに、分類の基準も、元になるデータも、すでにきれいな形でそろっています。あとは流し込むだけ——と言いたいところですが、アプリ側の取り込み形式にはおそらく独特の作法があるはずで、ここはこれから経理担当のAIと一緒に探っていくことになりそうです。
いちばん面倒だと身構えていた「散らかった情報を整える」という山は、ひとまず越えられた気がしています。残るデータ投入の工程についても、うまくいったらまた続きを書ければと思います。同じように経理を後回しにしてしまっている方の、何かのヒントになれば幸いです。